日々、想う。んで、記す。

プライドを持たない、節操を持たない、愛着を持たない、弱音を吐かない。

仮面ライダー龍騎を見て、考える

12月の頭から、東映特撮 YouTube Officialで公開されている、「仮面ライダー龍騎」を見ている。「平成仮面ライダーシリーズ」第3作で、キャッチコピーは「戦わなければ生き残れない!」。2002年2月から2003年1月まで放映されていて、「13人の仮面ライダーが自らの望みを叶える為に最後の1人になるまで戦い続ける」という設定。すごいな…。子どもたちは何がなんだかわからんだろう…(笑)ライダー同士の戦いと、モンスターとの戦いが混ざるので、どれがどれだか…(笑)
半年前の2001年9月にアメリカ同時多発テロ事件が起こった後、制作チームも「ただ一つの正義を信じられなくなっていた」というようなインタビューを読んだことがあります。宇野常寛『リトル・ピープルの時代』の中で紹介されていた、白倉伸一郎さんによる『仮面ライダー龍騎』についてのコメントを引用(以下、引用はすべて『リトル・ピープルの時代』から)。

企画段階で「9・11」が起きたんですよ。その後のブッシュ政権の対テロ戦争をふまえて感じたのは、「良い者」が次々と「悪い者」をやっつけて最後は悪の本拠地を叩くというこれまでのヒーロー物語を繰り返していていいのだろうかという疑問でした。今の時代に冷戦時代の精神構造を子どもに植えつけるのは、非常に危ないと。何が正義なのか、疑いの目を子どもたちに持ってもらいたいと思ってつくったのが「龍騎」です。(p.261)

絶対的な正義というものがないので、その対概念としての「悪」も描かれない。

そこには基本的に「悪」は存在しない。存在するのは13通りの、いやそれ以上の(n通りの)「正義」だ。この呼称が気に入らないなら「欲望」でも構わない。同作において(従来の)「正義」は「欲望」の下位概念だ。13人の仮面ライダーは、それぞれが信じるもの/欲望するものを賭けてゲームにコミットし、殺しあう。(p.263-264)

まさしく、龍騎は「正義のために戦うというのは本当に正しいのか?」というのを考えるきっかけになるドラマになっていればいいけれど。まあ、仮面ライダーをメインに見ている未就学児にとってはあまりに難しテーマか(笑)でも、ここにチャレンジすることこそ、エンターテインメントならではの、この社会の問題への解決策ではないかな、と思う。
社会的にも議論を呼んだみたい。当時の教え子たちが、龍騎を見ていて、よく変身ポーズを教室でしてくれていたように思うけど、彼らはこんなこと知らなかったろうなあ(笑)

仮面ライダー龍騎』は、そのラディカルさゆえに大きな議論を呼んだ。仮面ライダーたちがそれぞれの正義、いや欲望を掲げて殺し合う展開は、ヒーロー番組こそが「こんな時代だからこそあえて」「勧善懲悪を子どもたちに教える」「教育番組でなければならない」と主張する中高年の消費者層=本郷猛から「正義」を教わった世代の消費者層からは強い反発を受けることになった。しかし、男子児童をコアターゲットにもつ本作の商品展開は成功し、シリーズの継続が決定づけられた。「子どもたち」は世界がもう少し単純だった頃に帰りたい大人たちのノスタルジィよりも、現実を受け止めた新しい表現を選択したのだ。(p.267)

9・11のアメリカ同時多発テロが象徴するリトル・ピープルの時代がいよいよ顕在化したゼロ年代----仮面ライダーは正義の不可能性が前提となった世界を受け入れることで復活を遂げた。
正義とは個人の欲望の一種でしかなく、各々のプレイヤーの興じるゲームでその暫定的な正当性が問われる----仮面ライダーは正義/悪についての問題設定を立て直した。あるいは「父になること」をめぐる問題設定を書き換えた。もはや問題は「(その不可能性を引き受けながら)いかに正義を成し遂げるか/父になるか」ではない。その不可能性を前提としたとき、既に私たちは小さな正義を掲げる小さな父である。いや自動的にそう機能してしまう。あとは、複数の小さな正義/父たちの調整の問題(ゲーム)が残されているだけなのだ。『仮面ライダーアギト』から『仮面ライダー龍騎』へ----平成「仮面ライダー」シリーズは9・11の世界的な衝撃を、極めてラディカルなかたちで吸収した物語的想像力として進化したのだ。(p.277)

まあ、そんなしちめんどくさいことを考えなくても、じゅうぶん楽しめるけれどもね。そんな龍騎の脚本家は小林靖子さん。今でもバリバリにスーパーヒーロータイムで脚本を書いている人。電王もこの人の脚本ね。すごいなあ。
宇野常寛『リトル・ピープルの時代』は本当におもしろかったです。興味ある人は、読んでみるといいと思います。

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リトル・ピープルの時代

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