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海軍大将・米内光政の伝記

 終戦直前に終戦工作のために奔走した海軍大臣・米内光政。名前は知っているけれど、どんな人かについては知らなかったので、阿川弘之米内光政を読了。

米内光政

米内光政

海軍大臣としての米内光政

 著者の阿川さんが言っているように、名前を読めない人も多いだろうな。日本史とかでも別に取り上げられるわけではないしね。「米内」は「よない」と読みます、です。

米内は「日本がほんとうに復興するまで二百年」と言ったそうだが、実際の立ち直りは彼の予想よりはるかに早かった。その代わり昔時先人の苦労を忘れ去るのも早く、歿後十二年経ってそろそろ米内の名前なぞ正確に読めない若者が多くなって来たころ、郷里の有志の間で銅像建設の話が起った。
海軍では、初代海軍卿勝安房が銅像ぎらいだったし、山本五十六井上成美の両提督も、軍人が銅像になったり神様になったりすることに嫌悪感をいだいていた。戦時中、山本神社建立の話を「山本が迷惑する」と言ってつぶしたのは米内自身であった。(p.549)

 陸軍と比べると、海軍はリベラルなイメージではあったけれども、実はそんなことはなくて、組織なので当然一枚岩でもない。米内光政は特にエリートでもなかったらしいけれど、艦長としての実績みたいなところは、下士官からはとても評価されていたらしい。米内さんが海軍大臣になったときに言っていた言葉の覚悟がいい。

身辺のことはどうでもいいらしいが、就任後山本五十六次官と組んで、米内が日に日に心を砕き始めたのは、海軍を大臣の厳重な統制下に置くということであった。
「海軍大臣なんて俗吏だよ」
と彼は言っていたが、部内で政治に関与してよろしい者はその「俗吏」ひとり、私利私欲にもとづく策謀や、陸軍の革新派と同調するような政治的動きは絶対許さないという意気ごみがうかがわれた。(p.207)

他の海軍士官たち

 米内光政以外にも、さまざまな海軍士官たちのエピソードが読めます(いいものも悪いものも)。本当にそうだなあ、と思ったのは、保科善四郎中佐の士官としての持論。戦前に活きなかったのが本当に残念。これは、今でもまったく同じ事が言えるんじゃないかな、と思う。

アメリカへ来る後輩の士官たちに、彼(駐米大使館附武官輔佐官保科善四郎中佐)は、
「情報が欲しいといっても、無闇に向うを刺戟するようなことはするな。大事なのはその国を知ること、人を知ること、友人をたくさん作ること」
と言い、自分でもそれを実行していた。
(略)
彼の持論、彼がアメリカで親しく交った友人たちが役に立つのは、日本海軍が一度全滅したあとのことになるけれども、(略)(p.95-96)

 それから、大井篤も異端とされてはいたみたいだけれども、とても共感できる。「それってどんな意味があるんすか?」と訊く学生に答えられない先生。意味あるカリキュラムを組むことができない学校。

大井篤は、今の海軍の佐官クラスでは少々異端者である。もともと異端者の傾向があった。四年前、海軍大学校甲種学生に在学中、
「学生長のくせにあんな生意気なことを言う奴」
と、職員会議で問題になり、首にされかけた。
生意気なというのは、海軍の伝統的戦略思想を彼が事毎に論駁したためである。
例えば、軍令部の作戦課でも海大でも、将棋が奨励されていて、木村八段を海軍大学校に招いて講義を学生に聞かせたりしているが、大井はこれに反対を唱えた。
将棋はルールが決っていて情報を必要としない。情報が欲しければ「お手は?」と訊ねていいことになっている。あんなもの、個々の戦術場面では役に立つかもしれないが、大きな戦略を決定しようという時、将棋のつもりでかかったら大まちがいが起る、充分なじょうほうをもたず、相手をこうだと決めてかかってはいけない、将棋を戦略の勉強になると思うのはおめでた過ぎるというのが大井篤学生の主張であった。(p.253-254)

ドイツとイタリアとの三国同盟の時にも、米内さんは反対をしていたそうだけれども、このときにも、この大井少佐はけっこうまっとうなことを言っているように思うのだよね。そして、その大井少佐をおもしろがる米内さん。

アメリカの出方については、こちらに都合のいい仮定に基づいてしかものを考えない。伝統の殻を破ろうといつ人は、これ亦時流に眩惑され予断の上に立ってドイツに信頼を寄せようとする。そこくせヒットラーの「マイン・カンプ」を日本語でしか読んでいない。あれじゃ駄目だと、大井少佐が部内近年の風潮に反撥していることを、米内は古賀峯一あたりから聞いて知っていたらしい。それで、白書青書を口実に彼を大臣室へ呼びつけたにちがいなかった。(p.256)

 組織としての性格が、昭和期から日本は本当に変わっていないのかなあ、と感じてしまう。こういう異端者をおもしろがれる組織の長でなくてはいけないよなあ。当たり前だけど、組織は人です。多少、変な奴を活躍できるように遊ばせておくことができるかどうかも大事かな、と。それをしすぎて、暴走した例もわが国にはあるけれど。
 いろいろ考えさせられました。

なんか、こういう曲と合わせて読んでいた

 主に電車の中で読んでいたので、だいたい音楽を聴きながら、だったのだけど、日本海軍の話を読むのに耳では洋楽が鳴っているのはいやで(笑)、吉川晃司「SAMURAI ROCK」を聴きながら。なんか、切々と歌われる「Nobody's Perfect」がとっても良かったなあ。
 鳴海荘吉は、「仮面ライダーW」の中での役名ね。吉川晃司は、仮面ライダースカルとして映画に出演。これに出演してから、「何でもできるな」とまたひとつ自由になった感じがする、みたいなことをどこかのインタビューで言っていたような。そして、今は西郷隆盛ですからね。こちらでも、「もう、顔の似てる似てないはしょうがないじゃないっすか」と言っているのが、らしくて好き。

SAMURAI ROCK(通常盤)

SAMURAI ROCK(通常盤)


鳴海荘吉(吉川晃司)- Nobody's Perfect (Music Video) - YouTube