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塩野七生『海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年 上』を読んだ

 塩野七生『海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年 上』を読了。ヴェネツィア、すごいなあ。海洋国家として地中海交易で富を築いた、というくらいの知識はあったけれど、実際に1000年も続いていたのかあ。ヴェネツィアの現実的な政策が素晴らしいと思う。人口十万とか十五万でしょ?やるべきことと、やるべきでないことを明確にしていた国家だなあ。

 第四次十字軍のときに、機会をとらえてヴェネツィアは大きくなるのだけど、そのときにも、「持たない国」なりの現実的なチョイスをしています。取れるだけ領土を取る、というのではなくて、最小限で着実に、「交易帝国」になるために必要な分だけを取る。これって、「取れる」ときには取りたくなっちゃうものなのに、すごいことだと思う。

ヴェネツィアの“高速道路”は完成した。十万人前後の人口しか持たない国が、東地中海全域を着実に押えて交易帝国になるには、合理的で現実的な地固めが必要である。ヴェネツィア人は、第四次十字軍という好機を十二分に活用して、それを完成させたのであった。(p.154)

 それと、1000年続いた理由として、塩野さんが挙げているのは、「失敗できないというギリギリ感」。「してはならないこと」がはっきりしていて、そのために資源を集中している。

ヴェネツィア共和国は、資源に恵まれなかった国である。資源に恵まれた陸地型の国家ならば、非能率的な統治が続いても、それに耐えていかれる。古代ローマ帝国ビザンチン帝国、そして、これからしばらくして、ヴェネツィアの宿敵として立ちふさがってくるトルコ帝国も、悪政が続いても、それが帝国崩壊につながるには、長い長い歳月を要した。一方、資源に恵まれないヴェネツィアのような国家には、失政は許されない。それはただちに、彼らの存亡につながってくるからである。都市国家や海洋国家の生命が短いのは、この理由による。
ヴェネツィアの支配階級は、一度の飢餓さえも、十万から十五万しか人口を持たない国にとって、致命的であることを知っていた。国営の小麦倉庫を管理する役人には、一ヶ月に一度ずつ、正確な在庫量と、それで全人口を養える日数を報告するだけでなく、政府の委員会が必要最低限と認めた量の小麦を、いかなる方法でも確保しておく義務があった。このヴェネツィアに、飢餓は一度も起っていない。
ヴェネツィア共和国は、資源に恵まれない海洋都市国家としては例外的に、一応の国力を維持し続けながら長命を保つのに成功する。その最大の原因が、ピエトロ・グラデニーゴによって行われた政体の改革であった。ヴェネツィア人にとって、統治能力に優れた政体を創り出すことは、イデオロギーをもてあそぶなど許されない、切実な課題であったのである。(p.262-263)

 結果としてヴェネツィアは、東西貿易の要になるのです。なんか、運河の街、というくらいしか認識がなかったのだけど、すごい興味が湧いてきた…。

ヴェネツィアは、海外貿易によって東西の要の役を果したが、女たちの趣向にもそれがあらわれている。豪華な服地や宝石、香水は、ビザンチン帝国からの影響であり、薄いヴェールやターバンの趣味には、ビザンチンに代ってオリエントの主になったトルコの影響がうかがわれる。金髪への憧れは、北ヨーロッパとの交流の結果であったろう。それに、ヴェネツィア特産のレースが花をそえて、娼婦の風俗まで参考にされる。これが、十七、八世紀にパリ・モードが台頭してくるまでの間、イタリアにかぎらずヨーロッパ中の女に影響を与えた、ヴェネツィアのモードであったのだ。(p.368-369)

 ヴェネツィアの女性たちについて紹介されていたページで見た、「カヴァリエレ・セルヴェンテ=奉仕する騎士」(p.387)という制度、おもしろいなあ。おもしろいなあ、この制度。不在がちの主人の代わりに、妻たちをエスコートし、持ち上げ、という男性。こんな制度があったのだねえ。

 いやー、おもしろかった、本当に。まだ上巻。下巻も楽しみ。

海の都の物語―ヴェネツィア共和国の一千年〈上〉 (塩野七生ルネサンス著作集)

海の都の物語―ヴェネツィア共和国の一千年〈上〉 (塩野七生ルネサンス著作集)