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堀栄三『大本営参謀の情報戦記 情報なき国家の悲劇』を読んだ

 堀栄三『大本営参謀の情報戦記 情報なき国家の悲劇』を読了。とてもおもしろかった。著者の堀さんは、戦時に大本営の情報参謀として活躍。

大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇 (文春文庫)

大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇 (文春文庫)

 堀さんが、寺本熊市中将から陸大合格時に伝えられた言葉、よかった。メモメモ。

陸大だけが人生の最終目標ではありませんぞ、陸大は一つの通過駅で、そこで何を汲み上げたかが大事なこと、そしてそれを元にしてこれから以後どう生きるかが、もっと大事なことですよ。君の父上がその例だ。陸大は出ていないが、陸大にいった者が及びもつかない識見、行動力、洞察力、人格をもって今日までの日本の航空を作ってこられた。陸大を人生の最終目標にして権力の座について、椅子の権力を自分の能力だと思い違いしている人間ほど危険なものはない(p.41)


 それから、真珠湾攻撃後の、アメリカの日系人強制収容についてのところも。こういう表現、好き。政治はこれくらい大局観をもってやってほしい。

どうして日本人は、こんなにまで「おめでたい」のだろうか? むろん日本人をJAPと呼んだ当時の感情的反発の行動であったのは当然として、裏から見れば、あれで日本武官が営々として作り上げてきた米国内の諜者網(もちろん日系人全部というわけではない)を破壊するための防諜対策だったと、どうして考えないのであろうか。米国人は、国境を隔てて何百年の間、権謀術数に明け暮れた欧洲人の子孫である。日本人のように鎖国三百年の夢を貪ってきた民族とは、情報の収集や防諜に関しては全然血統が違っている。四十年後に何百万ドル払って不平を沈めようが、戦争に負けるよりはぐっと安いのである。
尊師の言葉の中でもあまり知られていないものに、「爵禄百金を惜しんで、敵の情を知らざるは不仁の至なり、人の将にあらざるなり、主の佐にあらざるなり、勝の主にあらざるなり」という言葉がある。大要は、敵情を知るには人材や金銭を惜しんではいけない、これを惜しむような人間は、将帥でもなく、幕僚でもなく、勝利の主になることは出来ないという意味で、情報を事前に収集するには、最優秀の人材とあり余る金を使え、と教えている。(p.94-95)


 堀さんたちが作り上げた、『敵軍戦法早わかり』についての記述は悲しい。そう、戦略の失敗は、戦術や戦闘では取り返せないのです…。

それにしても『敵軍戦法早わかり』は、もう半年も一年も以前に出来上がっていなければならなかった。出来たら開戦前に――。これを読めば、米軍の艦砲射撃の威力、破壊効力、軍艦の所有弾量、上陸直前の砲爆撃の日数、程度、目標、米軍上陸部隊の上陸行程などが一目瞭然と図示されてあって、少くとも米軍に対してもっと強靭な戦闘が出来たはずであった。
今でも堀の印象に残るのは、ペリリュー島を守備した第十四師団の中川連隊長が、大連での堀たちの事前説明を熱心にメモして、時には質問してきた姿である。それが記述のとおり、わずか四ヶ月のうちに、米軍の艦砲射撃と爆撃にも耐える強固な陣地を構築して、孤軍奮闘よくもあれだけの戦闘が出来たものと驚嘆の外はない。一握りの戦略作定者たちの過失にもかかわらず、一言半句の不平も述べず、戦略の失敗を戦術や戦闘では取り返せないことを承知しつつ、第一線部隊としての最大限の努力をしながら彼らは散華していったのである。
情報は常に作戦に先行しなければならない。その意味では『敵軍戦法早わかり』は、大正十年からその作業が始まっていなければならなかった。日本の情報部も、開戦直前まで北方ソ連を見ていて、太平洋では惰眠をむさぼっていたのだ。
その惰眠のために、何十万の犠牲を太平洋上に払わせてしまったと思うと、情報部もまた、少々の後悔や反省だけでは済まされないものがある。(p.157)


 この夏は、この本と『失敗の本質』と読んだのだけど、本当に陸軍海軍の話だけでなくて、今の企業でもまったく同じような状況は普通にあるよなあ、と思うわけでした。自分は何ができるか、考えないといけないよ。

失敗の本質

失敗の本質

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)